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「孤独」

僕のことは放っておいてください。
そう、彼は言うのだった。
欄干に寄り掛かって、或いは、
手摺に完全に体重を預けた体勢で、
そう、僕に言うのだった。
僕がどんな言い方をしても、ただ一言、
僕のことは放っておいてください。
僕は何度も、彼のことを放置した。
僕の言葉に彼が一様な反応しか見せないのに反し、
僕は彼に会うたびに、色々に、様々に、
彼が何か別の反応を見せやしないかと、
思いつく限りの言動を試してみたのだ。
けれど、どんな言葉も、どんな姿勢も、
彼の表情を少しも動かしやしなかったのだ。
ただひとつ、彼を動かすものといったら、
日が山の向こうに沈んだ瞬間に、僅かに吹き上げる、
静かな静かな、一陣の風。
彼に背中を向けて、その日も僕は彼に別れを告げる。
そこに、何も言葉は存在しない。だから、
僕の背中を見た彼がどんな表情を浮かべるのかなんて、
彼と同じくらいに孤独な僕には分かりやしない。


20060801


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