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「煙草」

7年ぶりに点けた火に、彼は誘われてきたように近づいてきた。
それが火に誘われる小さな虫みたいな見慣れない目つきで、
僕はなんだかそれを口につけるのが躊躇われた。
灰皿の傍で、ただ灰に変わっていく切れ端を摘んでいる、
そんな僕を、何を言わずに彼は見つめ続けている。
否…、彼の視線の先にはただ、細くたなびく煙があるのみ。
彼の視界には最初から、僕などは入っていなかったのだ。
僕の自惚れなのか、それとも、自重と自嘲の裏返しなのか。
そういえば、7年ぶりの喫煙ということは、僕はあの頃、
まだ未成年だったのだと苦笑を小さく漏らすだけの自分だった。

20050502


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