目覚ましが鳴らなかった。
言い訳を考えながら遅刻の電話をしている最中にケータイの電池が切れた。
水道の蛇口が閉まりきらずに水がポタポタと流れ続けた。
洗顔料が切れていた。歯ブラシも穂先が開いていた。
顔を洗った後で、タオルを洗うのを忘れていたことに気づいた。
靴下の親指に穴が開いていた。靴紐が切れていた。
具合が悪いので遅刻したいという言い訳が莫迦らしくなった。
ポストからはみ出た封筒が雨で濡れていた。
苛立って蹴り上げた石ころがクルマのボディに当たって凹みが出来た。
渋滞を避けようとして入った小道で水道工事をしていて迂回させられた。
会社に電話をしようとポケットからケータイを出した瞬間に手を滑らせた。
アクセルとブレーキの間に落ち込んだケータイを幾度も踏んだ。
多分大通りの先では交通事故でも起きているのだろうとぼんやりと思った。
駐車場が埋まったコンビニエンスストアの隅でズル休みの電話をした。
熱が上がったので今日は仕事を休みたいという言い訳が情けなかった。
傷ついた買ったばかりのケータイを眺めて溜め息をついた。
コンビニで買った缶コーヒーの角が凹んでいた。ますます気分も凹んだ。
飲めないはずのブラックコーヒーを片手に思考を止めた。
朝から子供が飲むような炭酸飲料とスナック菓子を買い込んだ。
ケータイの電源を切って、クルマに乗り込んだ。
込み合った大通りを横目に反対車線を速度を上げて走った。
額に手をやると嘘だったはずの発熱が始まっていた。
クルマから降りて見覚えのある石ころを大きく蹴飛ばし、
濡れた封筒をゴミ箱に放り込み、
靴紐の切れた靴と穴の開いた靴下をゴミ箱に放り込み、
空の洗顔料のボトルと穂先が開いた歯ブラシをゴミ箱に放り込み、
水を滴らせる蛇口を握り締めるように閉め、
目覚まし時計をセットし直して、もう一度、眠ることにする。
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