ご機嫌ポイント



 自宅に仕事上のパートナを構えるというのは、時に妙に児戯のような会話をもたらすものだ。
 個人で構えている事務所の書類整理にと、忙しいときにだけ近所の高校生を雇っている。時給は安くても文句は言われないし、交通費は自転車通いで微々たるものだし、大体が小遣い稼ぎの域を出ないものだと知れているので、なかなか使い勝手がいい。
 近所の高校生、といっても、元からが親戚の子であるので、お互い気心が知れている。不意の残業があったところで、飯の一度や二度、奢ってやれば大喜びするのでしめたものである。
「はい、コーヒー」
 そんなわけで、とある立て込んだ一日の夕食後、夜半の仕事に向けてもうひと頑張りにと、カップをふたつ持って給湯室から部屋に戻ると、彼は満面の笑みを浮かべた。
「ナイス。1ポイントあげるね」
 カップを受け取りながら、そんなことを言う。
「……なんだよ、1ポイントって」
「何かイイコトをされた時に僕からプレゼントする、ご機嫌ポイント」
「……なんだよ、ご機嫌ポイントって」
 思わず、眉に根が寄った。
 彼は熱いコーヒーを啜りながら解説してくれる。
「100ポイント貯まると、僕からも飛び切りのイイコトがあるよー。お楽しみに」
 子供が悪戯を思いついたときのような、茶目っ気のある表情で彼は言う。
「……飛び切りのイイコトって、なんだよ」
「やだなあ、それをわざわざ言わせるの? 先に? いいの? 言っちゃって?」
 続け様に語尾を上げる彼の目が、どんどん細まっていく。
 嫌な予感しかしない。
「いや、いい。言わなくていい」
 僕は首を振ったのだが、彼はどうしても言いたいらしい。
 だったらさっさとそれを口にすればいいのに、やたら勿体振る。 「いやいや、教えてあげよう。100ポイント貯める励みになるよー」
「いや、いいから。ポイントもいらない」
 その出鼻を挫くために、僕は頑としてイエスとは言わない。
「そう言わずにさあ。ちなみに、今のところ34ポイント貯まってるんだよ。まだまだ先は長いよ」
「いつから始まってたんだ。……いいって、もう」
「なんだよ、つれないなあ。1ポイント減点!」
「……減点もあるのか」


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