都会の闇には、様々な性質の少年が潜んでいる。
子供とも大人とも言えない時空の狭間で生きるように、その存在すらも蜃気楼の如く危ういのが、彼らだ。その存在意義は何処にもないが、敢えて言及するならば夢と現実に差異がないのと同じく、彼らがそこにいてはいけない理由はないということ。
例えば、あそこで優艶に微笑むのはアナフィラキシーの少年。利き手の甲に蝶のタトゥのフェイクを貼り付け、ナイフをかざし、けれどそれを用いることはなく、口に含んだ二錠のタブレットを噛み砕き、再度ゆっくりと、笑む。
その視線の先で居眠りをしていた野良猫を爪先で軽く蹴飛ばすのは、ナルコレプシーの少年。前髪のひと房をレモン色に染めて、それを微風に揺らしながら、細切れになったカプセルを掌の上から風に舞わせて、やはり艶やかに笑む。
赤と白の石を並べて陣地を取り合うディジタル・トリップ。高層建築の欄干を飛び移って渡り歩くシーソーゲームは、いつでもリスクが一度限りの遊びで、帰りの道を行くのに必要なイグニッションキーは、必ずフェイクの飾り物。
そう、きっとそこには夢と真実しかない。
絶望も希望も、そこにはありはしない。
確固たる事実に相反する現実が、きっと意思をも侵食するのを待ち受けている。
やがては彼らの脳裏から湧き出た想像が、現実を浸食するだろう。
そのために、彼らは居るのかもしれない。それが、闇だ。
「――きっと、ね」
一人の少年が歌うように囁けば、隣の少年が、相槌を打つようにまた呟くだろう。
「それとも本当は、もう現実なんてないかな?」
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