橋上少年



 絶望の名の下に渡り始めたその長い橋の上では、僕の後ろから様々な人が次々と身体を追い越していく。
 何を行き急いでいるのか分からないが、そんなに早く渡りたいのだろうか。
 そう思いながら、のんびりと歩いていれば、誰かとぶつかって、その精神が、罵倒の言葉を投げかけていく。
 言い返す気力なんてとうに消え失せていて、もう遠くなってしまった幻の街を背に、ただ足が前に向かって動いているだけだった。
 過去なんてもう存在しないし、未来に見える希望も霞に消えた。
 確定しない現在は、ただ、漠然と、ふわふわと漂っているだけで、もう何もかもに絶望したのは、遠い昔のことのように思える。
 そう、多分僕が橋を渡り始めたときには、現実の存在すらも曖昧なものになりつつあったように思う。だから、僕の後ろから来る人々は皆、行き急いでいるのだ。
 すれ違った少年が、ふと不敵に笑う。
「貴方は一体、何に怯えているの」
 と。
「それとも、終わってもいない道を歩くことに、嫌気が差しているの」
 と。
 問い掛けているのか、それとも僕に忠告しているのか、分からない。ただ声が聞こえた。
 そのとき、気づいた。彼以外に、すれ違う人がいなかったことに。
 ……では、彼は何者なのか。
 振り返ると、少年はもう、そこにはいない。
 ただ、追い越される、己に向けた不甲斐ない欲望。
 そうしてみて、やっと気づいたのだ。彼は自分の過去だったのだと。

 僕は少しだけ、橋の上を進む足を速めた。勝負はどうやら、まだ終わってはいないらしい。


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