愛せども 言葉に出来ぬ 思ひこそ 欠けたることを 補えもせず
今更に 儚む世あり 我が侭に 決め付けるのは 何処の何某
美しと 言わずと知れた 雪月花 そこに居たれば 要らぬ言葉よ
笑みを見せ 目尻を下げる 優しさに 心根見せぬ 巧緻を悟り
女郎花 着物の中に 咲く花と 誰が伝えた 女郎の花よ
傘の影 霧の向こうに 鶴の声 はたと見遣れば 旅人の歌
凶報を 違えて伝ふ 吉報に 幸福ひとつ 虚ろに消えゆ
草の花 名もなき色を 摘み取れば 後に残るは 名もなき緑
今日暮れて 明日が明けにし 我が日々は 良きも悪きも なきが幸い
後悔を 一度や二度と したことで 過去のひとつも 変わることなし
桜花 狩りし男子の 掌と 頬の色香の 等しきことよ
時雨落ち 辺りに染まる 冷たさに ついと感じる 暮れの予感と
隙間風 触れる我が身に 思うこと 風の精とて 温もり求む
芹の花 浮かぶ湯飲みの 冷めた緑 されど溶けるは 甘い白さよ
染め抜きの 飛白の着物 羽織りしは 霞の匂う 年端の彼に
滝壷の 水面に浮かぶ 山梨の 弾く水滴を 涙と見たり
竹林に 首を竦める 笹の子の 思う楽しみ 将来の君
月の輪に 明日を憂える 地上人 天の隣人 朝に泣くかと
天蓋に 夢現にも 見掛けるは 布の谷から あの人の名を
年月を 長きと見るか 短きか 人によりけり 歩みの流れ
長霜の 草の根上げる 縁の下 舞台の裏に 陰の役者よ
滲む白 落つる一滴 漆黒の 硯の横で 筆を片手に
濡れ縁に 薄く積もりし 初雪を 名残惜しくも 掃く切なさよ
猫の手を 葉書の末尾 判代わり 手紙の署名 古今通じし
軒の下 雨に宿られ 宿る者 雨が帰しても 帰せぬ二人は
花形に 装い着せて 華やかに 咲くも雅な 人の形代
密やかに 耳と唇 近寄せて 囁きあうは 夜の少年
不意の夢 かつての迷い 蘇り 無為の操り されど払えず
辺境の 土地に住まうは 世捨て人 人たる限り 捨てられぬ世ぞ
本心を 表に出さぬ 彼の人は 笑顔見たいと 思わせる人
またひとつ 思いを文に しけれども 真直ぐに伝ふ 確たるはなし
水を掻く 虚空を探る 仕種かな 夢を掴めぬ 嗚咽の手なり
難しき 初の対面 呼ぶ声を 随意に出来ず 呼ぶしがらみぞ
目の端に 映る美点を 忘られず 幾度も出向く 普遍情景
もしきみの 居なくなりしは 胸の穴 心の穴を 誰が埋めじと
山裾の 小さな村に 雪積もり 山頂未だ 緑の不可思
湯の花に 散りて漂う 秋桜 恋を占い 長湯患い
寄り掛かる 転寝の君 安息の 夢となればと 物言わぬ僕
楽園の 姿形を 思い馳せ 参することを 共に描けば
六道の 縛り逃れし 死に顔に 来世の君の 六道憂う
瑠璃鳥を 捕らえて羽根を 引き抜けば 我が手の中で 色を失ふ
冷淡な 面持ちに秘す 本心を 口に出来ぬは その未熟さよ
論議より 唯一見せる 証拠とて 想いの君は 顔を近づけ
別れども 心に響く 音あれば 共存せんと 言葉に換えて
■ ■ ■
携帯サイト版「CC」の10000HIT記念企画として書いた、50音川柳(全44句)です。
50音、というテーマを決めて取り掛かったので、さくさく書けたような気もします。
いかにも祐樹一依らしい句も見受けられて、そこはかとなく苦笑を誘いますが、
何か一つでも貴方の気に入るものがあれば幸い。
そして、これからも当サイトをよろしくお願い致します。ペコリ。
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