「ん…、待って。ちょっと、待って。煙草、替えた?」
「√」
「なに。御機嫌斜め? それはぼくの方だって。なにさ…、気取ってみたつもりなの、きみらしくない」
「√」
「当ててやろうか。…キャスターのスーパーマイルドからマイルド。そうでしょう。3ミリから5ミリにヴァージョンアップってわけ。そんなので喫煙者としてレヴェルアップしました、なんて宣言が出来たと思ってるのかな」
「√」
「なに言ってるのさ。だから、機嫌を悪くしたいのはぼくの方なの。もう何週間かぶりにキスをした瞬間に、これだよ。マナーとかそういう問題じゃないって。もう、ヴォルテージも下がる下がる…」
「√」
「そんなこと言ったって、ダメ。もう、お仕舞い」
「√」
「ふん…、巧いこと言ったつもりでしょう。でもねえ…、そんな言い回しじゃあ、誰も引っ掛からないよ。言ってやろうか? ぼくだって、本当は今、笑い飛ばしてやりたい気分なんだよ。卑屈にね」
「√」
「そういうこと。何が悪いって…、そうやって、利己主義でしか生きられない奴が、如何にも常に他人のことを考えて生きています、とでも言わんばかりの演説を打つことだよ。ぼくの一番嫌いな人種だ」
「√」
「違うって。それは全く、完璧に、お門違いだよ。本題を履き違えてないかな。ぼくはさあ…、モラルの話をしてるわけじゃあ、ないんだよ。そんな、綺麗事は誰かと話していても、無駄でしかないの」
「√」
「ああ…、それはあるかな。たまにはいいこと言うじゃない。必死なの? ぼくの機嫌を直そうとしてるわけ?」
「√」
「ふふん…、成る程、成る程…、そういうことなら、悪くないかもね」
「√」
「必死だね、きみも…。そんなにぼくって、きみを嫌っちゃいけない人間なのかな?」
「√」
「逆じゃないさ。きみがぼくを嫌おうと好こうとそれはきみの勝手だし、ぼくだってそれはぼくの勝手だろう? そういうことだろう?」
「√」
「主旨なんてないさ。勘違いしないでって。どうして急に別れ話になっちゃうの。そんなことはぼく、おくびにも出した覚えはないよ。言ったでしょう、笑い飛ばしてやりたい気分だって」
「√」
「ははッ、その通りさ。当たり前じゃない。本気か本気じゃないかなんて、些細なことさ。むしろそんなことを、一々言葉で確認しなきゃ安心出来ないような奴がきみなら、ぼくはとっくにそいつを見限ってるよ」
「√」
「うん?」
「√」
「そうでもないよ。別に嫌いじゃない。ただ、気に入らないことだってたまにはあるさ、ぼくにだって」
「√」
「独占したいわけじゃない。きみの自由まで奪いたいなんて思わないよ。誰かを束縛したいなんて感情は愚の骨頂だね」
「√」
「言わせるわけ、それを? ぼくに?」
「√」
「ふん、後悔するかもしれないよ」
「√」
「また、そんな気を持たせるようなこと言っちゃって」
「√」
「へえ、そうなんだ…、じゃあ、言ってもいいかなあ」
「√」
「…√」
「√」
「…√」
「…√」

(*作者注:本編中の「√」は、作成上の演出です。)


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