プレゼントは独り占めしたい



 近所のハンバーガーショップに遅い朝飯を食いに行くと、レジ前に同僚のTがいた。
「おはよーす」
「あ、どうも」
 既に注文を済ませていたらしいTは、私に一歩譲る感じに身を引いた。
 ホットコーヒーとツナマフィンのセットを頼んで、私は彼の隣に立って待つ。
「どう、週末」
 土曜と日曜がクリスマスイブとクリスマスである。世間では家族と過ごすクリスマスか、それとも異性で過ごすクリスマスか、或いは他人同士で過ごすクリスマスか、はたまたひとりきりでその二日間を過ごしてしまう者も多いのか。私や彼は、その末端に数えられる者だった。年齢イコール、という言い回しは使えないにせよ、孤独を気取って生きられるほど若くもないし、悟るほど老いてもいない。
「別に、ですね。カノジョも連絡寄越さないし」
 Tはぶっきらぼうに言う。
「相変わらずなのか」
 十年近く付き合っていた彼女と大が付くほどの喧嘩をしたのが先々月だったか。あわや、人傷沙汰に発展するかという修羅場を経験したらしいと聞いてはいるのだが、不思議なことにTとその彼女、破局には届かなかったようで、なんだか『喧嘩をするほど仲が良い』という言い回しは本当なのか、と信じなければならないような事態である。
「相変わらず。どっちも意地っ張りなもんで」
 しかしまあ、それ以来、まともな連絡を取り合っているわけでもないらしく、それは消極的な付き合いの解消と呼んでしまっていいのじゃないかと私は思うのだが、Tはそうではないと言う。意地を張って、そっぽを向いているだけ、ということなのか、よく分からない。
 頼んだものがカウンタに運ばれてくると、私とTはトレイを持ち、並んで喫煙可能なスペースに移動した。
「飯食う前ですけど、吸っていいですか」
 ヘヴィスモーカの彼はジャケットに突っ込んだ手をごそごそ言わせている。
「ああ、どうぞ」
 私は頷いて、ホットコーヒーにミルクと砂糖を入れる。猫舌の私でも啜って飲める程度の熱いコーヒーだ。美味い。
 TはTで、美味そうに煙草をくゆらせると、ゆっくりと細く煙を吐き出した。
「彼女なんですけど」
 Tは指に挟んだシガレットを見つめながら、言った。
「ちゃんと連絡取ってみようかな、って思って」
「ああ」
 へえ、と私は内心思う。互いに意地を張っていたのではなかったのか。私は知らないし特に関心もないことだが、何らかのアプローチがあって少々の話し合いの場でもあったのだろうか。それとも、そうでなくとも、Tの側に何か、折れざるを得ない心境の変化があったということだろうか。両者の沈黙を経て、ただ無為に時間が浪費されただけではなくて、大人であればその中でも自問自答を挟んだことにより回答らしきものを見つけ出せた、そう好意的に解釈出来れば良いのだが。
「良いんじゃないかな。何もしないよりは、ずっと良い」
 私は頷いた。Tは小さく苦笑する。
「何もしないよりは、って……、他にどんな選択肢がありますか」
 まるで、俺がそうする他に手段などないと決め付けるような言い方だった。
 私は無言で首を振る。それは私から告げることではない。
 私のコートの内ポケットで、ケータイが震えた。メールの着信である。
 ツナマフィンの包みを広げながら、ケータイの画面を見る。
『何処へ行ったの?』
 短い文面。発信者は、彼女である。
『朝飯』
 短く返信をして、私はツナマフィンに噛り付いた。


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