体力ゲージ



 隣でネットサーフィンしている彼女の頭の上に、ふと、ゲージが見えた。
「なにそれ」
 思わず触れようとして手を伸ばすが、僕の手は空を切った。見えるだけであるらしい。
 アクションゲームに出てくる、体力ゲージに見える。
 白い縁に青い色でカラーリングされており、その中には白抜きで数字がある。
「……47」
「なに?」
 不思議そうに僕を見返す彼女には、僕のゲージは見えていないらしい。
「いやさ、きみの頭の上に体力ゲージが見える」
 僕はそれを指差して答えた。彼女はぽかんと口を開けて僕を見返す。
「疲れてるの?」
「いや、疲れてるのはきみだろう」
 彼女の体力ゲージは全体の四分の一くらいに減っていた。ということは彼女の体力は最大値で大体、180くらいだということだ。いやしかし、何が180なのだろう。基準はなんなのだ。100パーセントの基準であれば話は早いのに、ひとそれぞれで絶対値が決まっているというのは第三者に対して優しくないではないか。
「きみの体力、あと47だよ」
「なに、47って。多いの、それ」
「さあ……」
 僕は首を捻る。突然見えたゲージに、何の意味があるのか。相手が疲れているかどうか、くらいしか役に立たないのではないか。僕はちょっと試してみたくなる。
「ちょっと横向いて」
「なにするの」
「ちょっとね」
 横を向かせた彼女の頬を、軽く叩く。ぺちぺち。
「ちょっと……、なに、なんなの」
 ゲージの中の数字が、46になった。
「おお、減った」
 ということは、このままぺちぺち叩き続ければ、彼女はどうにかなるのだということだろうか。
 まさか、死にはしないだろうけれど。いや、どうなのだろう。
 彼女は最早、呆れを通り越して、なんだか残念なものを見るような視線で僕を見る。
「貴方は」
「え」
 彼女は言った。
「そう言う貴方のは?」
「さあ……」
 僕は再び首を捻る。
「自分で自分の頭上は見えないからなあ」
「鏡でも見て来たら?」
 それはつまり、顔を洗って出直して来い、ということか。
 冗談で言っているとまだ思っているのだ、彼女は。それはそれで仕方あるまい。
 僕はすごすごと洗面室に向かう。勿論、鏡を見る。
 僕の顔を映す。
 すると、あった。
 白い縁に青い色のカラーリング。その中に白抜きで数字がある。
「……2」
 僕の体力ゲージは全体の半分だった。
 これは一体どういうことだろう。
 彼女に数回ぺちぺちと叩かれたら、僕は死ぬのだろうか。


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