「もしもし?」
『もしもし、俺』
真夜中の電話は、親友からだった。受話器を上げた途端に響いたノリのいい声に、咄嗟に耳を離しそうになる。
「ああ……。どうした、こんな夜遅くに」
『聞いてくれよ。もう仰天の報せ』
「何だよ、息堰切って」
彼は、唐突に言うのだった。
『俺、死神に会ったんだぜっ』
「はあ? 死神?」
『そう。ビックリだろ』
「そりゃあ、それが本当の話ならな」
『あ、信じてねえな?』
「莫迦。信じられるわけないだろう。第一、本当に死神に会ったっていうなら、どうしてお前は今、こうやってのんびり僕と話してられるんだ。よくも死なずに平気なことを言ってられるものだよな」
『あ』
「あ、じゃないよ。分かりやすい嘘をつくなって」
僕が言うと、あはは、と彼は笑った。
『あっさりバレちゃったなあ』
「いいさ。それより用件は?」
『えーと……、悪い。暇潰しに掛けただけなんだ、ホントは』
「……そんなことだろうと思ったよ」
『悪いってば。この通り』
「見えないよ」
思わず苦笑する。
「何処から掛けてるんだ?」
『駅の公衆電話から』
「こっちに来るんなら、僕は構わないけど」
『あ、いや。今夜はもう、無理だわ。行かなきゃいけないところがあるんだ』
「そうか。ま、次はもっとそれらしい嘘をつくようにな?」
時々、彼は人を驚かせるようなことを平気で言う奴だが、その殆どは直ぐに嘘だと見破れる軽い冗談で、それが彼らしさでもあるのだった。
『う、心遣い、痛み入ります』
「じゃあ、またな」
「またな、か……」
受話器を置いて、彼は振り返った。そこには、黒いコートに身を包んだ青年が立っている。
「もう、いいのか?」
彼は青年に頷き掛けた。
「ええ……、あいつと最後に話せただけでも、俺は満足です」
「それにしては、随分とおふざけが過ぎたようだがな」
「いいんです。俺とあいつには、そんな神妙な会話は似合わないんですよ」
黒衣の青年は、僅かに笑ったようだった。
「そうか……、では、行こうか」
「はい」
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