クリーンルーム



「部屋がちっとも片付かないから手伝いに来て欲しい」
 と電話を受けて、休日に出向いてみた彼の部屋は、散らかっているどころか殺風景な印象を受けるしかなくて、
「一体何処をどういう風に片付ければいいんだ」
 と彼に訊いてみたら、彼は怪訝そうな顔をして、
「何を言ってるのさ。ほら、ここもそこも。幾ら片付けても綺麗にならないんだ」
 と、指を差し、指を差し、困ったような顔で、
「手伝ってくれ。頼むよ」
 と手を合わせて言うのだった。そうして何やら片付ける仕種をする彼の手には、勿論、というか奇妙なことに、ゴミなんてひとつも取られない。からかっているわけでもなさそうなのだ。かといって、
「お前おかしいんじゃないか」
 なんて言えるわけがない。
 何かがおかしい、というのは明らかで、しかし何もしないでいるのは変に思われそうで、というより怖くて、とにかく振りだけでもしてやらなければならないだろうと、僕は取り合えず彼の殺風景な部屋を歩き回って、目に見えないゴミを拾う振りをした。
 漂ってすらいない埃を濡れ布巾で拭う動作をして、忙しなく動く彼を見ているうちに、一体、ここは僕に見えないゴミだらけの部屋なのか、それとも実は、僕には世の中のゴミというゴミが突然見えなくなってしまったのか、或いは彼にしか見えていないゴミが大量に存在するのか、次第に分からなくなってきて、
「勘弁してくれ」
 と思わず泣き言が出てしまった。彼は、
「全然片付いてないじゃない。もう少し頑張ってよ」
 そう空の手を動かしながら言うのだった。


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