一軒家だった。
特に目立った装飾もない、木造の家は、ある日突然、その集落の近くの道の真ん中に姿を見せた。
集落の皆が驚いたのは当然だ。何もないところに、夜が明けたら家が一軒現れたのである。
一体何者が家を建てたのか。……いや、そんなことはない。彼らに一夜で家を建てることは不可能で、それに誰かが住んでいる風でもない。中は空っぽだったのだ。表札はぼろぼろに汚れて、読むことが出来なかった。
そもそも、道の真ん中に家があることが奇妙なのである。
誰かが引き摺ってきた、とでも言うのだろうか? しかし普通に考えて、彼らにそこまでの強靭な力はない。
『そういえば……』
集落の物知りがハッと気づいた風に言った。
『昨夜は台風が通り過ぎた。その風が運んで来たに違いない』
本当に強い風雨がその地域を襲ったのだ。
住み家の一つや二つ、飛ばされても可笑しくはない、というほどの。
皆が納得していると、ペットショップのマークが描かれたトラックがやってきた。
どうやら早朝の運搬時に荷台から落としてしまったらしいその犬小屋を、二人がかりでトラックに載せ、運んでいった。
後にはただ、呆れたような顔で見守る野良犬たち。
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