猫禁猟区



 「猫」と呼ばれる者たちが、その界隈には多く住み着いていた。
 外見や知能は一般人と殆ど変わらないが、決定的な違いはあった。
 その街の人々は、その中から各人お気に入りの者を拾い上げ、連れ帰って、共に暮らすのが、いつの間にか流行りとなって久しいように思われる。
 相反し、趣味にそぐわない「猫」であったものが捨て置かれると共に、彼らが「捨て猫」と呼ばれ、彼らが増えるのも、また避けられない事情だった。いつしか、純正の「猫」を、人に飼われる味を覚えてしまった「野良猫」が傷つけ始めるようになる。人の温もりを覚えたが故に「野良猫」と呼ばれるのは皮肉な話だが、それが何より「猫」の血を乱し始めたのも、また事実だ。
 そこで、政府は一つの政令を発布した。それが「猫禁猟区制」。
 「猫」は次々と政府の用意した施設に囲われ、地方自治体に無許可で『飼う』ことは自由に出来なくなり、高い金を出さなければ入手は出来なくなるようになる。それに伴い、純正の「猫」は裏で取引される高級な者となるようになった。天然記念物や、国際法による輸出入禁止動物と同じ意味合いである。否、それよりも高い値で取引されるようになっているとも言う。今や、「猫」たちは我々、常人よりも尊い生き物として扱われるようになったのだ。
 やがて、あの界隈に集まる「猫」の中に、常人の血の混じった「猫」が混じるようになったという。それがどんな経緯を辿ったのかは誰も知らないが、その外見は常人に酷似しているという話もあるらしい。真偽は定かではないが……、常人と「猫」との差異がなくなってきている、という話も聞いた。これから、人と「猫」はどう生きていくのだろう。そして、これまでは守られるのが当たり前であった純正の「猫」が解放されたとき、政府のしたことはどのように問われ、「猫」たちの行く末はどう問われていくのだろう。
 それは、誰にも分からない。


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