眠れぬ夜を抱いて



 闇が世界を支配していた。私は毛布を懐に寄せ集め、眠れぬ夜を抱いて、ただ静かに呼吸を繰り返していた。
 カーテンを張った窓の外は黒一色で…、いや、黒よりもずっと濃い、闇という色が全てを塗りつぶそうとうごめいている。
「眠ることは、怖いことじゃない」
 私は、呟いた。夢物語を語るように、穏やかに、優しく、緩やかに、夜に向かって囁いた。
「眠ることは、明日を目指す旅路の準備をすること。それは難解な心構えではなく、柔軟に前向きな姿勢を作ること。それは楽しいかもしれないし、悲しいかもしれない。でも、その中には必ず自分がいる。自分が、自分に嘘を付かないこと、その真実だけが確かめられたら、あとは自由な世界が待っているはず」
 楽しいことだけじゃない。けれど、我慢も必要。世界の全てが楽しいことだけだったら、悲しいことが現れたとき、人は耐えられないでしょう?
 だから人は、夢を見る。
「夢を見ることは、怖いことじゃないよ。だから」
 私はただ一人の息子に囁いた。
「だから、ゆっくりお休み、夜」
 息子はただ、小さく呼吸を繰り返す。


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