無言の宣告



 四年ぶりに実家に帰省すると、そこはもぬけの殻だった。
 俺の一家は、俺が知らないうちに離散していた。
 近所の住人も、親戚の者も、家族の行方を知る者は誰一人としていなかった。役所で問い合わせてみても、住民票には誰の名前も記載されておらず、戸籍にすら家族の記載はなかった。
 住民票はともかく、戸籍にすら親の名前がないなどということは有り得ない。でなければ俺はこの国で存在していなかったことになってしまう。どちらかが間違っている。しかし、現に俺の家族は、まるでいきなり、忽然とこの世から姿を消してしまったかのようだった。
 俺の人生で最初で最大の、あまりにも突飛過ぎる謎が俺の前に現れた。一体、彼らは何処へ行ったのか? 本当に消えてしまったのか?
 悩みを抱えつつ、帰省と調査で使い果たした資金の調達の為に銀行に行くと、その直前に、俺の口座に直接、その銀行の窓口から、金が振り込まれていた。この世から消えたはずの親からだった。
 俺は、脳裏に疑問符を一杯に浮かべながら、それを引き落とそうとした。しかしそれは出来なかった。
 ……そのときになってみて、ようやく俺は真相を悟るに至った。世間から存在を抹消されたのは、『俺の親』ではなく、『彼らの息子としての俺』の方だったのだと。彼らは存在している。俺も当然、存在している。その互いの理由が消されようとしている。俺はそれを突き止めねばならない。どちらが間違っているのかを、突き止めねばならない。
 無言の宣告に、確たる否定を求め、俺は再び実家を離れた。


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