少年とナイフ



 その日は、なんだか辺りがおかしいとは感じていたんだ。
 その理由は、直ぐに見つかった。
 道端に、何故かナイフが沢山落ちているんだ。
 折りたたみ式の小さなナイフ。食卓用の果物ナイフ。
 細身のペーパーナイフ。刃がむき出しの削り出しナイフ。
 ぎらぎら光るジャックナイフ。木で出来た置物のナイフ。
 機能が様々に付いたサバイバルナイフ。工作用のカッターナイフ。
 ステーキ用、サラダ用、デザート用の、テーブルナイフ。
 新品のように綺麗なナイフ。ぼろぼろに錆びたナイフ。
 ――ナイフばかりが、そこらじゅうに落ちているのだ。
 何百何千のナイフを見つけるうちに、日が落ちた。
 ようやく気づけば、その日は誰にも会わなかった。
 会ったのは、道端のナイフばかりだった。
 まるで、人間がナイフに変わってしまったかのような、そんな錯覚を受けたけれど、そんな莫迦なことは有り得ない。ともかく僕自身は何事もなく一日を終え、静かに眠りに就くことにしたのだった。


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