幸せの条件



 キャラメル一粒で幸せになれたあの頃は、本当になんて幸せだったのだろう、そう思いつつも、僕は売店で偶然見つけた箱から取り出した一粒に頬を緩ませた。
 何年かぶりに目にしたキャラメルの箱。吸い寄せられるように買った箱の中の一粒をゆっくりと舐めながら、僕はほんの少し昔に帰ったような、懐かしい気分でいた。
 ふと視線を感じて見てみれば、四、五歳くらいの子が、僕の手をじっと見ている。キャラメルの箱を見ていたのだ。
「欲しいの?」
 僕が言うと、彼は何も言わずに、けれど笑顔で頷いた。
 僕が箱から一粒取り出して渡すと、彼は嬉しそうな顔をして、
「ありがとう、おにいちゃん」
 と小さく礼を言った。
 その子は、近くにいた彼の母親らしい女性の方に走っていった。大切そうに一粒のキャラメルを握って。
 これもらったよ、とその子が手を開き、嬉しそうな声で言うと、
「知らない人からものをもらうんじゃありません」
 と言ってキャラメルを摘み上げ、彼女は脇にあったゴミ箱にそれを放り捨てた。


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