ルナティック・シンドローム


 散歩をするのは結構好きで、気分が向けば外に出て、気分任せに道を行く。

 人の波ある街中も、喧騒(けんそう)のない郊外も、何処へ行くかは気分次第。

 緩く結んだ靴紐は、綺麗にできた蝶結び。

 軽く着込んだパーカーと、膝が冷たいスカートと。

 小春の日にはそれくらい。暖かくては詰まらない。

 いつも変わらぬ景色はあれど、変に気兼ねることもなく。

 木々の枝には蕾が増えて、久方ぶりに口笛吹いて。

 一人ゆるりと空気を踏んで、一人ゆらりと景色を眺め。

 髪を撫で行く冷たい風と、喉に流れる緑の匂い。

 時に身近な道端の草、不意に仰いだ青空の雲。

 有限の時を引き換えに空の青すら一色でなく、心のように無限色。

 何が面白可笑しきことか、それもその場の気分次第。

 猫が一匹横切れば、後に残った足跡を、逆に辿ってみたりして。

 垣根の裏の小猫たち、枝に飛びつく無邪気な子。

 首を銜(くわ)えて巣に戻る、警戒顔の親猫の、視線の先には鴉の目。

 何故か味方をしたくなり、小石を投げて追い払う。

 のんびり通る通学路、視界の端に友人の、屈託のないその笑顔。

 井戸はないのに集まる彼ら、詰まらないのに会議は続く。

 それを横目に何処までも行く。元々、目的地は不明。

 意味もないのに最後には、わたしはいつもそこにいる。

 家の隣に校舎があると、自然とそこは散歩のコース。

 かつて通った小学校。校庭の端、林の小道。

 遊び場、隠れ家、遠回り…、他称名称数あれど、わたしの目指すは、いつも、そこ。

 小道外れの桜の下の、一つ余所見(よそみ)の小枝を横に――。


     □     □     □


 ――貴方は、少年を拾ったことがありますか?


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